「多重防護」というのがあります。
あらゆる危険を想定して、何重にも安全策を考えるというものです。
たとえば、航空機。
エンジンが停止した場合、火災を起こした場合、車輪が出ない、乗客に急患が出た、パイロットが食中毒になった、燃料漏れが見つかった。 着陸予定の飛行場が悪天候。管制塔との通信障害が出た。
そして、これらすべてが同時に起こったなど、そういった時に、どのような危機回避策がとられるかというのが「多重防護」です。
福島第一原発の件もこの多重防護に問題がありました。
そこで、よく言われるのは「想定外であった」ということ。
この「想定外」とは何でしょう。
「多重防護」は、航空機や原子力発電といったものだけではありません。私たちのビジネスでも十分に考えられることです。
今回の震災で、サプライチェーンの問題点が明らかになりました。部品や資材の工場が被災して、完成品のラインが停止してしまったというのは、数多くの企業で発生しました。
震災直後、水不足が発生しました。コンビニでも、スーパーでも、自販機でも水は売り切れ。
その大きな原因が、ペットボトルのキャップにあったと言われています。
大手のキャップ工場が被災して生産量が激減。その上、ドリンクメーカーによってキャップの色もサイズも違う。そのため、代替が効かないということがありました。工業会とドリンクメーカーでは、今後は、キャップは白に統一し、サイズも規格化するように検討中とのことです。
自動車メーカーはさらに深刻で、完成車製造ラインが現時点でも回復していません。これは、日本に限らず、世界の完成車工場にも影響を及ぼしています。
「多重防護」の対策を立てたとしても、「絶対」とか「完璧」というのはありません。
よく言われている「想定外」とは、「多重防護」の費用対効果の限界点でもあります。
不慮のトラブルを想定すれば、それは、限りなくあります。
それらすべて対応するためにはお金もかかる。
どこかで線を引く必要があり、それを超えてトラブルが発生したものが「想定外」というものだと考えます。
ただし、今回の原発のような事故が起きると、その処理や賠償費用は膨大なものになります。
結果論ですが、「想定外」を「想定内」にすることにかかる費用の方が実はずっとコストセーブになっていたのをあらためて教えてもらった気がします。
電気事業連合会のホームページの「よくある質問」のところに次のようなことが書いてあります。
<以下原文のまま>
質問:想定外の事故・事象に対し、運転員はどのように対応するのか?
回答: 原子力発電所は多重に安全設備を設け、定期的に機能試験を行い、その健全性を確認しており、それらが同時に動作しないことは通常考えられませんが、そうした事故・故障が発生した場合においても、運転員が「止める」「冷やす」「閉じ込める」という安全確保の基本に沿って、原子炉の安全確保と事故の影響緩和を的確に行えるよう、「運転マニュアル」を整備しており、このマニュアルに従って対応操作を行うこととしております。
注:アンダーラインは筆者がいれました
想定外の事故・事象に対して、運転マニュアルに従って対応するというのは、論理的な答えではないですよね。マニュアルというのは、想定内が原則ですから。
想定外であればマニュアルは使えないはずです。
今回の事故でそれは明らかになったにもかかわらず、このホームページではいまだに「安全・完璧」と印象付ける表現をしています。
ホームページをよく読むと、最後に「トラブルの拡大を抑え、影響を最小限に止めることを目指しています」となっていました。
「目指しています」とは、「安全でないかもしれない」ということを言っているんですね。