福島第一原発の事故発生により、周辺の農畜水産物の風評被害が出ていることが連日報道されています。「 しっかりと情報発信しているので消費者は「風評」に振り回されないように冷静な対応をしましょう」といった内容です。
まるで、「消費者は無知なので風評に踊らされやすい」と言わんばかりです。
この「風評」のとらえ方をマスコミはじめ関係者の皆さんは勘違いをしているのではないかと思います。
都合のいい時は自分で「風評」をつくる。 都合の悪い時は「風評」を批判する。
そんなマスコミの姿勢も感じます。
肉や魚や野菜の売り場に、ゴキブリが何匹か走りまわっていたとします。そのゴキブリは商品そのものの上で走りまわっているわけではありませんが、売り場のあちこちで見かけます。そこで、店で商品の安全を検査をしたところ、販売している肉や魚や野菜からは、食中毒菌や有害物質は検出されずに「安全」でした。ですから、これらを食べても「健康被害は出ません」
また、肉にハエがとまりました。でもその肉は十分に火を通した調理法で料理すれば、こちらも健康被害をもたらすということは考えられません。
あなたは、こういったゴキブリやハエがたかってしまった食品を、「基準値を超えていないので安全」といわれたら買いますか?
「安全」と「安心」とは違います。「安全」というのは、検査などによって科学的に証明されたもの。こちらは客観的に判断できます。 一方「安心」は個人の感覚の問題です。あくまで個人の主観的な問題です。 いくら「安全」といわれても、ゴキブリがいたり、ハエがたかった食品は、「安心」とは感じずに、買うのを躊躇する人がいても当然のことだと思います。
「風評」とはまさにこの「安心」と同じことだと思います。ですからいくら「安全」と言われても,、放射能が規制の数値内であると言われても、なかなか買うのに勇気がいるというのは、仕方ないことです。
消費者にいくら「風評に踊らされないようにしましょう」といってもそれは無理な話です。
では、どうすればいいか。まずは、風評が起きないようにすることが第一。
しかし、おきてしまった場合どうするのか。 長い時間がかかりますが、ひとつひとつ安心を積み重ねていくしかありません。 そして、自分自身が風評被害を引き起こすような行動をしないこと。
実際に被害に合った方々に対しては、風評の元となった当事者が(今回は東電や国)が責任をきっちり取ることだと思います。
以前、中国産の毒餃子事件がありました。その頃、中国産の食品から様々な問題が出てきて、店頭から中国産が一気になくなりました。消費者も中国産と聞いただけで買わないということがありました。
当時、某テレビ局のニュース番組のディレクターと某新聞社の記者から電話取材を受けたことがあります。質問はつぎのようなものでした。 「我々が中国製の食品から身を守るにはどうしたら良いか?」というものです。 むずかしい質問です。 なぜなら、この質問に対する答えは一つしかないからです。
つまり、質問する側も初めから答えが決まっていてこちらに聞いてきているのです。
その答えは、「中国産のものをできるだけ食べない」ということです。
しかし、それでは本質的な問題は解決しません。
その時、私は、「中国産だからといってすべて危険だとは限らない。むしろ、日本からしっかりとした技術指導が入り国産のものと変わらない品質基準で作られているものもたくさんある」という話をしました。
そうしたら「うーん、そうなんですか。でもそれではニュースにならないんです」という「本音」の答えが返ってきました。
風評を作っているのは一体誰なんだ? そう感じます。
海外のマスコミが今回の原発の事故の件を誇大に報道しているとの指摘がありました。
しかし、立場が変われば日本の報道もやっていること(誇大に報道すること)は変わりないなと感じました。まさに中国産食品の時は中国産というだけで危険というイメージをしっかりと国民に植え付けました。
さて、今回「風評」で被害を受けた農家の方や水産業に携わる方々にとっては、確かに「風評」は死活問題というのも事実です。
しかし、いくら首相や政治家が安心だからといって、率先して風評被害の出ている食品を食べるパフォーマンスをしたとしても、妊婦さんや小さなお子さんを持つお母さんにとっては、やはり少しでも影響の少ない食品を買いたいという気持ちになるのは当然のことだと思います。
残念ながら、風評被害をなくすことはできないと思います。
もし、損失を被った農畜水産業の皆さんに対しては、保障として当事者がその責任を取ることしかないと思います。
とにかく、一日でもはやく原発事故を終息させ、安全をしっかり確保することです。そうすれば、徐々に風評はなくなっていくでしょう。
でも、時間がかかりそうです。
何せ、相手は放射能ですから。